美しい筈の月





2 接触




「友雅さん!」
「詩紋じゃないか」
流石の友雅も驚いたようである。
「い、いつからこの世界に?」
「十日程かな。鷹通もイノリもいる」
「ホントですか・・・」
諮問は座り込みたい気分だった。
自分と天真と同じ時に他の八葉までこの時空に来ているなんて。
信じ難い話だ。
いや、自分は今までそれこそ本当に誰も信じてくれないであろう体験をしてきたのだけれど。
「その洋服は・・・」
口をついて出たのは、そんなどうでもいいことだった。
「ある女性の助けを受けていてね。
 その方に用意してもらったのだよ。
 その・・・八葉全員が望んだことではあるだろうね、
 神子殿と共にありたい、と」
自分の質問を先回りして答えた姿に、改めてこの人は友雅だと確認した。
既に女性の世話になってるというあたり、彼は全く違う世界であろうと、
そのままの彼で生きていくことが出来るのだ。
「一度会ってみるかい?鷹通たちにも」
「はい・・・お願いします」
もう二度と会わないと思ってお別れをした人達に会うのは、少し複雑だ。
あの時龍神に京の平和を願い、自分達の八葉としての役目は果たしたはずである。
まだ何が僕達を繋いでるというのだろう。





「ボク、昨日友雅さんを見た気がするんだ・・・」
朝の通学路だった。
一歩踏み出して天満の横に並んだ詩紋が、声を小さく言った。
「なんだって?お前の見間違いじゃないのか?!」
「郵便局の角のところだったんだけどね。どう見ても友雅さんだと思うんだけどなぁ」
天真は胡散臭そうに詩紋を一瞥した後、勢いをつけて詩紋に質問をぶつけた。
「どんな格好してたんだ?着物か?一人だったのか?
 何時頃だ?つうかお前、話しかけたのか?」
「そんなに一度に質問されても困るよぉ。
 道路の反対側だったから話しかけてもないし、こっちの人のカッコだったよ。
 ジーパンにセーター。一人で歩いてた」
詩紋は天真と目を合わせないようにした。
このことに天真先輩が気付いたら困る。
「やっぱり人違いだろ。もし本人なら、俺達と同時にこっちに戻ってきたはずだし。
 あの時は俺達3人しかいなかっただろ?」
「うん・・・そうだけど」
「その話、あかねにもしたのか?」
「まだだよ」
天真は空を仰いだ。
「なぁ詩紋。その話なんだけど・・・あいつには黙っておいてくれないか?」
「えぇ?ちょっと天真先輩!」
じゃあ昨日の約束は何だったんだ。あまりに勝手すぎる。
「これ以上、今あいつを動揺させたくないんだ。
 お前だってそうだろ?」
天真の思いつきにしては真剣な目に、詩紋は黙ってしまった。
「わかったよ・・・」
多分天真は怖いのだ。
神子としての務めは全て終えたはずなのに、再びあかねが傷つくことが。
でもそれ以上に、本当はあかねが誰を選んだのか知るのが怖いのだ。
自分と詩紋は、あかねと共に現代へ帰ってきた。
それだけで満足したいのだ。
本当のことなど知りたくない。いや、知ろうとする勇気が無い。
それこそ、天真に指摘するなんて出来ないけれど。








続く