街に着くとナオジはマリーに細々とした買い物のリストを彼女に渡し、
「自分は別の用事を済ませてきます」
と言って歩いていってしまった。
その街は穏やかで、まだ戦が及んでいないようだった。
家の窓には花が飾られ、店には嗜好品が並んでいた。
マリーは街での時間を楽しみにしつつも、少しやり切れない気持ちになっていた。
自分はレジスタンスにも革命軍にも身を置いた。
考え方こそ違えど、自分達のリーダーを信じて従うものの気持ちは殆ど変わらない。
でも戦いは否応なく、戦う意志の無い者を巻き込んでいく。
戦う意志が無いからと言って、誰もがカミユのように振舞えるわけではない。


でもやっぱり、ルードヴィッヒ様の思い通りにさせるわけにはいかないもの。


昨晩書き上げたオルフェレウス達への報告の手紙を出して店の外に出ると、ナオジが男と話しているのが見えた。
マリーが革命軍では見たことのない男だった。
ナオジがこちらに気付いていないようだったので、マリーは念のために店の反対側のドアから表に出た。
そしてマリーが改めてナオジとの待ち合わせの場所へ行くと、既にナオジが立っていた。





「お待たせ致しました」
「いえ、自分も今来たところです。
メモにあったものは全て揃いましたか?」
「はい。この街はまだ色んなものが残っているのですね」
リーゼが無邪気を装って言うと、ナオジは少し表情を緩めた。
「そうですね。貴女の良い気分転換にもなったようで、良かったです。
では行きましょう」
ナオジの隣を歩いていると、ふいに学園でシュトラール補佐として過ごした日々のことを思い出した。
前にも卒業式の備品を買う為に、ナオジと学園都市に出向いたことがあった。
あの時、彼はその後ルードヴィッヒが起こすことを知っていたのだ。
いや、既にその一端に関わっていた。
考え事をしながら歩いていると、車が横切る音が近くで聞こえた。
「マリー!」
気づくとマリーは驚いたナオジに手を強く引かれていた。
彼女を歩道に引き寄せると、ナオジは怒った顔をしたまま、
「貴女が車道に直進していくものですから。自分はいったいどうなるかと」
「ごめんなさい・・・」
怒っているナオジを見るのは当然初めてで、マリーは思わず俯いてしまった。
「いえ、怒るつもりはなかったのですが」
「・・・あの、ナオジ様。もう手を・・・」
マリーが小声で言うと、ナオジは謝りながら慌ててマリーの手首を強く掴んでいた手を離した。



どうしようもなく気まずいまま、キャンプへ歩き出した。
ナオジの気まずそうな表情は直ぐに想像がつく。
斜めを見上げると、逆光で彼の表情はよく見えなかった。
だが、太陽の光の下で、黒髪はこんなふうに輝くのかと、思わず見とれてしまった。