「あなたがどのような思いで自分を頼ってくれていたとしても、嬉しく思います」
ナオジは生真面目な顔で、ニコリともせずに言った。
「ええ、よろしくお願いします」








卒業式でルードヴィッヒが革命を宣言したあの日、マリーはエドヴァルドの手を取った。
彼とオルフェレウスの起こしたレジスタンスに加わり、今回はローゼンシュトルツの学生であったことも考えて、自ら革命軍へのスパイを申し出た。
一連の選択に、一握りの迷いも無かった。
彼女は賢い方の人間であったし、自分の周りの人間―――少なくともシュトラール候補生もそうであると彼女は思っていた。



スパイとして革命軍に進入し、数日が経つが、何かにつけてナオジは自分を気にかけてくれ、よく扱ってくれる。
ナオジが賢い人間であることは確かであるが、何故彼がルードヴィッヒについて行こうとするのかは分からなかった。
その疑問は学園に居た頃からのものであり、今更と言えば今更なのだけれども。
ルードヴィッヒのことはさておき、彼の主導者としての能力は素晴らしい。
多くの人が彼につき従いたくなる気持ちも分かる。
しかしナオジはそんな物に惑わされる人間ではないはずだと、彼女は思っていた。



突然ドアをノックする音がして、ナオジの声がした。
「自分ですが、入っても宜しいでしょうか」
「はい!」
リーゼが慌ててドアを開けると、穏やかな顔をしたナオジが立っていた。
「明日からのことでお話があります。お時間を頂けますでしょうか」
ナオジを部屋に招き入れると、彼は一瞬部屋を見回した後、近くにあった椅子に腰掛けた。
「では、明日からのことですが・・・・」
本当に彼は翌日からの予定について話し始め、マリーはひどくほっとした。
いつばれるのかと、内心びくびくし続けていたのも事実である。
でもその時はきっと、エド様が助けに来てくれる。
「午後には買い出しに行こうと思うので、一緒に行っていただけますか?」
「はい。そういうことなら、私にもお手伝いが出来ると思います」
「ええ、革命軍だとばれないほうが良い時も沢山ありますから。
そうですね、軍の人間には見えないような格好で来て頂けると助かります」
そう言うと、ナオジはちらっと机の上を見た。
マリーはつい焦ったが、机の上にさっきまで置いてあったオルフェレウス達への手紙はもう仕舞ったことを思い出した。
「それでは、明日も早いですから。長居して申し訳ありません」
ナオジは立ち上がり、ドアに手をかけた。
「では、おやすみなさい」
「おやすみなさい、ナオジ様」
明日は久しぶりに革命軍のキャンプから出れる。
そう思うと嬉しくなり、早く手紙の続きを書いてしまおうと思った。